山鳩
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浅間の草深い高原。電車線路が細々と走って、その一駅に多木弁造が駅長の落葉松沢がある他に従業員とてなく、一日に何本も往復しない電車のあい間に畑作りや家畜の世話で、停年近い身をのんびりと独り暮しをしていた。ところが、ある霧の夜、老駅長がホームに戻ってくるとベンチに若い女が着物を取り乱したまま寝そべっていた。--女は鶴江といった。峠の向うの町で酌婦をしていたが逃げて来たのだという。多木は母にも棄てられ狐独の影強いこの女を泊めてやった。いつの間にか、彼女はここに住みついた。ともすれば挫けそうになる彼女の気持を労ってやりながら、多木自身も今までとは違った気持の張りを感じていた。