赤々煉恋
(C)2013 朱川湊人・東京創元社/『赤々煉恋』製作委員会
自殺により、浮幽霊としてこの世をさ迷う女子高生・樹里。彼女は日々、自分が生まれ育った家、自分の部屋、そして通っていた学校などを彷徨っている。彼女の眼に映る光景や人々はまさに現実そのもの。しかし、そんな人々が非現実の樹里に気付くわけもなく、彼女はいつもひとりぼっち。
しかし、不気味な容姿の「虫男」だけは別だ。虫男は問題を抱えた人間に憑りつく。その人間はやがて自殺の道を選択する。そんな光景を何度も見せつけられた樹里は自分の命が絶たれた理由、自殺に初めて直視する。自ら選んだ道ゆえに、「死」に対する後悔など微塵も感じなかった樹里は、娘の死に落胆する両親、また、その苦しみから必死に逃れようとカウンセリングに参加する様を見るにつけ、「自殺したことで何も救われていない。むしろ、残された人を苦しめているだけだ」と気づきはじめる。
そんなある日、樹里の存在に気付く林檎という就学前の小さな女の子と出会う。あの世に来てから虫男以外の他者とコミュニケーションができることを喜ぶ樹里だが、そんな林檎にも暗い影が落ち始める。林檎は多額の借金を抱えている母子家庭に置かれ、彼女の母は日々生きるのが精一杯という虫男が最も好む環境なのだ。案の定、虫男は林檎の母に憑りついてしまい、虫男に導かれるように歩み出す。母親から虫男を必死に振り払おうとする樹里。大声で他者に助けを求めても、彼女の叫びは誰の耳にも届かない。林檎にも母親を止めるよう訴えるが、小さい林檎にはその意味が分からない。「どんな命でもその灯を絶やしてはいけない」。そんな想いが、はじめて樹里の心に芽生えていく…。