蕨野行(わらびのこう)

その村には隠された掟があった。60歳を迎えた者は、人里離れた原野に移り住まなければならないのだ。そこは蕨野と呼ばれ、老人たちは里へ下って村々の仕事を手伝うことでのみ、その日の糧を得るのだった。 この年もレンを含めた8人の老人が蕨野に入った。数年に一度必ず訪れる凶作を、村として乗り切るためにはどうしても必要な昔からの知恵…。そう覚悟をしていたレンではあったが、一つだけ気がかりがあった。それは、嫁いで間もないヌイのこと。レンは自分を実の母のように慕うヌイに対して庄屋の嫁としての務めを十分に授けることができなかったのだ。

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