HERO

泰王のもとに、一人の男がやってくる。男は一本の槍と、二振りの剣を持ち、それには、中国全土で最強といわれる3人の暗殺者の名が刻まれていた。紀元前200年、戦乱の中国での物語。暗殺者たちを避けるために、百歩以内の距離には誰も近づけようとしない泰王。そんな泰王に拝謁を許されたこの男の名前は「無名（ウーミン）」。無名は、10年の歳月をかけ、十歩の距離まで近づけばどんな相手でも一撃のもとに倒すことのできる剣術“十歩一殺”を磨いてきた。その技で、持参した槍と剣の持ち主である３人の刺客を殺したのだった。無名が泰王への拝謁を許されたのはその功績。泰王は、特別に三十歩の距離まで近づくことを無名に許し、無名に３人の刺客を討ち取った経緯を話すようにと命じた。一人目の刺客、長空を討ったのは、雨の滴る棋館。雨音と琴の音が響く中での、武術の達人同士による一騎打ち。この長空を討った功績により、無名はあと十歩、泰王に近づくことが許される。「残りの二人、残剣と飛雪は、どうやって討ったのか」と問う泰王。二人は恋人同士だったのでそれを利用したと言う。すると、泰王は「お前は嘘をついている。あの二人にかつて私は相まみえている。彼らは嫉妬で身を滅ぼすような人間ではない。それに…お前は本当は何者なのだ。田舎の官吏などではないな？」。その言葉を聞いた無名はこれまで語ったのとはまったく別の物語を語りはじめたのだ。